30

夏はいつも思い出ばかり思い出してしまって、懐かしいような、焦るようななんとも言えない気持ちになる。

でも今年の夏は、なんだか今まで出会ったことのない夏だと感じる。

今までと何かが違う。そう思います。

去年は二度、死んでいいと言われました。

一度目は病んで頭がおかしくなって、神様が降りてきて、「今までたくさんお疲れ様、もう死んで楽になっていいですよ。」って私の妄想の中で言われた。

その時はいや…死にたくないです……って必死に生きようとしたけど、やっぱり生きていくってすごく辛くて、死にたくはないけど、生きていたくないくらい苦しかった。

そんな時、すきな人ができて、その人と付き合えるってことになりそうな時に、

今すごく好きだけど、この人のことをこれ以上好きになったら辛くなるなと思った。人の心は揺らぎやすくて、永遠なんてないから、いつかこの人が私に飽きてどこかへいなくなったら、その時どうしようもなく膨れ上がった私の好きという気持ちが張り裂けて死ぬほど苦しいな、私はその時この精神状態だったら死ぬかもなと思った。そして頭がおかしかったので、その人にそんなふうなことを告げた。

そうしたらそのひとは、「じゃあその時は一緒に死にますか?」と言った。

気まぐれなのか、ほんとか嘘かわからないけれど、そんなことを言う人がこの世にいるなんてしらなかったから、心底驚いた。

嘘でも気まぐれでもいい。

私はそのとき涙が出るほど嬉しかったんだ。

そのひとは私に死ぬなと言わなかった。死ねと突き放しもしなかった。ただなんでもない風にさらっと一緒に死ぬということを言った。

私はそのとき初めて、「生きないといけない」という圧力に苦しんでいたんだなと気付いた。

それから一年ほどたった今、私は生きている。

もうその人はそんなこと言ったなんて忘れているかもしれない。

でも私はずっとあの言葉をお守りみたいに胸の中に抱いてるから、今生きていけてる。

どんなに辛いことがあっても、「最後はこの人と死ねるんだもんな」そう思ったらふっと心が軽くなる。もしどちらかが関係に飽きてわかれるようなことになっても、そしたら別れる前に一緒に死ねばいい。

本気じゃなくても、冗談でもいい。ただその言葉に救われたってだけ。

それだけ。

今年の夏は、はじめての、心中相手のいる夏。